世界最大規模のゲームデベロッパー向けカンファレンス「Game Developers Conference (GDC) 2018」が、先月サンフランシスコで開催されました。前回はイベントレポートをお届けしましたが、今回は GDC で見えてきた2018年のモバイルゲームのトレンドを5つご紹介します。
①コンソール並みのクオリティのゲームが現実に
コンソール並みのクオリティのゲームをスマホで体験する夢がついにかなうかもしれません。PlayerUnknown’s Battlegrounds (PUBG) や Fortnite など、最近ではプラットフォームをまたいでプレイできるゲームが登場しています。米国のモバイルゲームユーザーが長いセッションに慣れている中、業界的には大きな変化です。
モバイルではコンソール並みのグラフィックの品質を実現することが可能になっていて、ゲームデベロッパーはプラットフォームをまたいで一貫した体験を提供することができるようになっています。Epic GamesのTim Sweeney CEOは、この1年でモバイルゲームのクオリティが上がり、ここ数年間のアジアのトレンドに近づくと語っています。
ハードコアゲームの場合、タッチスクリーンでは、ゲームパッドのコントローラーの機能を単に移植するだけではない仕様が必要になるため、デベロッパーにとっては開発が難しい分野になります。モバイル分野でハードコアゲームの人気が高まれば、コントローラーやバッテリーバンクなどのゲームプレイを充実させる周辺機器が再び盛り上がるかもしれません。
②ゲームコミュニティの問題への取り組み
悪質なゲームコミュニティの問題は目新しいことではありませんが、取り締まりや管理が必要なデベロッパーにとっては深刻な問題です。緊急を要する事件のうその通報をし、SWAT や警察を出動させるという「スワッティング」などのいたずらは度を超え、ついに2017年12月にはカンザス州で死者が出る事態になりました。
米国でサイバー・ブリーイングと呼ばれるネットいじめも、モバイル、コンソール、PCを問わずゲームコミュニティでも大きな問題です。有害なコミュニティをリストアップするサイトやゲームの有毒性を議論するネットフォーラムでは、匿名性と対戦性の高いゲームプレイが悪質なコミュニティを生んでいると指摘されています。
こうした悪質なコミュニティへの対策に取り組む団体、Fair Play Alliance は、GDC 開催中にサミットを主催しました。Fair Play Alliance は、ネットいじめなどへの対策法をゲームデベロッパーと共有し、ユーザーどの健全な関係構築を目指しています。Rovio、Blizzard、Epic、Riot、Supercell、Twitch などの大手が団体に参加しています。
③AR が静かにメインストリームになりつつある一方で VR は引き続きコアな存在
AR (拡張現実)と VR (仮想現実) はまだまだゲーム業界で目新しい存在ですが、マスへの拡大に向けた困難に直面しています。やはり VR に比べて AR の方が普及しているようです。AR の方がハードウェアを揃える必要が少なく、また、Apple の ARKit や Google の ARCoreといったAR 開発プラットフォームのお陰でデベロッパーはモバイル向けのARアプリを開発しやすくなっています。VRは、Creed: Rise to Glory のような革新的なゲームで、コアな分野のプラットフォームとしての存在感を保っています。Creed: Rise to Glory は GDC で、VRでプレイヤーをボクシングリングに立たせるショーを見せました。
Google は GDC で、ARCore で開発したゲームを紹介していました。バーチャルのたまごっちを育てて交流するアプリMy Tamagotchi Foreverのほか、ユーザーがバーチャルに家具を自宅に配置して購入を決められるPottery Barn 360 や Ikea Place のようなEコマースアプリなどです。
VR が下火というわけではなく、潜在性はあります。ただ、ハードウェアの充実がまずは求められます。B2Bの国際イベントを主催するメディア企業の UMB の Simon Carless 氏は Yahoo Finance のインタビューで、「VR は引き続き重要な存在です。ただ、VR のハードウェアは一部の人々が期待していたほど普及していません。こういうことはテクノロジーの初期のライフサイクルではよくあることです」と語っています。Oculus Rift や HTC Vive などの VR のヘッドセットは割安になっていて、いずれはワイヤレスになる見込みです。ただ、VR がすぐにメインストリームになるということはなさそうです。
④ユーザーへのリーチは共通の課題
大小問わずあらゆるデベロッパーは、モバイルゲームを発見してもらう難しさに直面していると思います。大手のアプリがアプリストアで発見してもらうのに苦戦しているというのは不思議かもしれませんが、競争の激しいアプリ市場では、あらゆるデベロッパーがユーザーにリーチしようと奮闘しています。
飽和状態のモバイルゲーム市場では、手堅いユーザー獲得戦略が重要になります。ASO (アプリストア最適化)、SEO (サーチエンジン最適化)、ロコミなど、オーガニックな手法とうまく組み合わせ、モバイルゲームデベロッパーはユーザーにリーチするための戦略を練る必要があります。
この1年、綿密なユーザー獲得戦略を打ち出す小さなデベロッパーに大手スタジオが負け始める様子を目の当たりにしてきました。特に、ほんの数分で遊べるハイパーカジュアルゲームが、App Storeの無料アプリランキングのトップを席巻しています。
Voodoo などのハイパーカジュアルゲームのデベロッパーのアプリは、シンプルで病みつきになるゲームの特質に加え、低単価でユーザーを獲得できるため、無料アプリのランキングで複数が上位に食い込んでいます。
⑤新たな巨大市場を開拓
大半の先進国市場が飽和状態のなか、モバイルゲームデベロッパーは新たな巨大市場開拓の機会を狙っています。GDC では特にインドに焦点が当てられ、テキストの翻訳だけでなく、適切なローカライゼーションの重要性や、インドのモバイルゲーム市場の特性を理解することの大切さなどが取り上げられていました。たとえばインドでは、PC やコンソールを経ずにモバイルからゲームが広がっています。つまりゲームデベロッパーは、PC やコンソールのゲームメカニズムの経験のないインドのユーザーと向き合う必要があります。
2018年の GDC では、欧米のモバイルゲームデベロッパーが市場開拓を狙う中国も焦点になりました。中国では、Tencent や Baidu、NetEaseといった国内大手の圧倒的な存在感というチャレンジがあります。モバイルデベロッパーは、ゲームを適切にローカライズしてプロモーションするために中国のパブリッシャーと密接に協力する必要があります。また、中国のアプリストア市場は分断化していて、欧米では機能するASO のツールや戦略は中国では使えません。
今回のGDCでもモバイルデベロッパーが意識すべきメッセージがいくつかありました。モバイルゲームは世界中で成長し続けており、変化に迅速に対応する必要があります。まず、スマホが進化し、いまやコンソールのクオリティのゲームプレイが可能性になる中、ユーザー行動はいずれ変化するはずです。次に、革新的な VR や AR 体験のモバイルでの可能性はまだありますが、VR はコストの高さや微妙なハードウェアのせいでまだコアな存在になっています。
最後に、モバイルゲームはますます世界で広がっています。特定の地域に進出しようとするデベロッパーは、いわゆる「グローバル」バージョンのアプリで現地のユーザーを取り逃してしまうことのないよう、ローカライゼーションに注力する必要があります。こうしたチャレンジは乗り越えられないものではありませんが、新たな戦略が必要になるはずです。