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MWC 2019 で見えたモバイルの未来を巡るトレンド

Nori Hayashi
3月 20日, 2019
MWC 2019 trends

世界最大のモバイル機器見本市「MWC (Mobile World Congress) 2019」が2月末に開催されました。どんな新しい技術が発表されるのか、開催地のバルセロナでは大きな注目が集まりました。MWC では、近い将来に登場するかもしれないモバイルや関連インフラを垣間見ることができます。

昨年は5Gが話題の中心で、一方でスマホメーカーの発表に特に目新しさはありませんでした。今年はもう少しエキサイティングな話題が増えました。折りたたみ式のスマホが登場したほか、5G技術の発展、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)からもニュースが相次ぎました。

今回は MWC から見えた、モバイルの未来を巡るトレンドをご紹介します。

 

5Gでゲームストリーミングが加速

昨年のMWCは、モバイル体験をより向上させるインフラとして5Gが話題を独占しました。5Gそのものだけでなく、そこから広がる新たな世界へと期待が膨らみます。

ゲームの分野で最もエキサイティングなパラダイムシフトの1つは、ゲームストリーミングでしょう。高速インターネットが外出先でも可能になれば、音楽や動画のようにモバイル端末でゲームをストリーミングで楽しめるようになります。消費者はゲームのライブラリにアクセスできるサブスクリプション型モデルにお金を払えば、スマホを含む様々な端末でゲームのストリーミングが可能になります。

こうした方向性はまず、バトルロイヤルゲーム「Fortnite」や「PUBG」のモバイルでの成功で兆候が見られました。どちらのゲームもダウンロードしてからプレイするものですが、モバイルでもコンソールのクオリティのゲームが求められている様子が浮き彫りになりました。5Gが実用可化されたら、モバイルゲームのプレイヤーはいつでもどこでも好きなときにゲームができるようになります。

ただすべてのモバイルゲームがコンソール並みの高いクオリティがあるわけではありません。ゲームストリーミングと5Gで生まれるのは、シンプルに、ユーザーが様々なタイプのゲームをプレイできるようになるという状況です。しばらくはまだ、外出先でのゲームプレイは、スクリーンタッチで操作する短いセッションの、モバイルにフォーカスするゲームタイトルが中心になるでしょう。ゲームストリーミングになると、当初のところは、ユーザーはうまくプレイするためにワイヤレスのコントローラーを購入する必要がありそうです。ただ、折りたたみ式のスマホの誕生などを踏まえると、スクリーンでのコントロールは現在のスマホのようなやりにくさがなくなるかもしれません。

5Gのインフラはまだ構築過程です。VentureBeat によると、5Gの導入には長い時間と多大な労力がかかりそうです。MWC 2019バルセロナを主催した GSMA の試算では、5G導入のために携帯キャリアは年間最大1,600億ドルを費やすことになるといいます。通信系の融資を手掛ける Greensill は、5Gネットワーク構築のために携帯キャリアが費やす金額は2020年までで2.7兆ドルになると推計しています。

2019年にはスマホをはじめとする端末が5G対応になり始めるのを目の当たりにしますが、利用可能な状況になり始めるのは早くて2020年になるでしょう。

 

VR・AR・MR、メインストリームへの道は険しい

米ラスベガスで開催された家電見本市CES 2019と同じく、MWC 2019でもVR、AR、MRに関する目立ったニュースは特にありませんでした。Microsoft は AR のヘッドセットHololens 2を発表しました。第1世代に比べてコンパクト化・軽量化されたほか、ハンドトラッキングが改良され、視野角(表示領域)が広がりました。ただ法人をターゲットとしていて、価格は3,500ドルと、大企業だけが検討できるようなテクノロジーになってしまいそうです。

HTC は、装着感やハンドコントローラーを改良した Vive Focus Plus を発表しました。スタンドアローン型のヘッドセットで、パソコンやスマホとの接続が必要なく、完全にワイヤレスな体験が可能になります。HTCのプロダクトでは最も消費者向けに近いかもしれないVRヘッドセットですが、価格は600ドルと今春発売予定のOculus Questより200ドル高く、いずれにせよターゲットは個人よりも法人になっています。

VR、AR、MRの分野の導入がゆっくりな理由は、プロダクト開発の遅さや発展性の乏しさだけではありません。ARやVRで魅力的なコンテンツが十分にないというのも一因です。VRやARは没入型のゲームプレイの未来を加速させるものであることに間違いはなさそうですが、ユーザーが魅力を感じるようなコンテンツが必要です。ユーザーが VR、AR、MR がコンピューターとゲームの次の最大のプラットフォームになると感じられるような大きな動きが、ハードウェアやコンテンツの面で生まれるのを待っているというのが現状です。

 

スマホの選択肢が増える

MWC 2019の最大のニュースは折りたたみ式のスマホの発表でしょう。Samsung は価格2,000ドルの折りたたみ式の Galaxy Fold の発表で世間を驚かせました。iPhone X の1,000ドルという価格帯ですら市場で受け入れられるか疑問でしたが、そのわずか2年後に倍の価格のスマホが登場しました。Huawei も折りたたみ式の Mate X を発表しました。価格はなんと2,600ドルです。

 

近年スマホは不思議でニッチな世界に突入しつつありますが、これは良いことでしょう。消費者は数年にわたって、搭載機能の全てを必要とするかどうかにかかわらず、主流のスマホを買うことを余儀なくされていました。Apple は数年間1つのモデルを発売し続けてスマホを大衆化しました。その後、2014年には iPhone 6 や iPhone 6 Plus が登場し、iPhone は現在7モデルも存在します。

MWC 2019では、メーカーが消費者のニーズに合わせてニッチなスマホを作り始めている様子が浮かび上がりました。カジュアルゲームを楽しむモバイルユーザーにとっては、200ドルのスマホで十分でしょう。全ての人々が最先端のゲームを楽しむために1,000ドル以上のスマホを必要としているわけではありません。すでに、Razer Phone 2 や ASUS ROG Phone など、コアなユーザーに合わせた機能を提供するメーカーも存在します。

たとえば、かなりの飽和状態のラップトップ(ノートパソコン)市場では、バリエーションが増えています。いわゆる従来型のラップトップ、タブレットに変形できるもの、キーボードを接続すればラップトップとして機能するタブレットなど様々です。ゲームに特化したパフォーマンス追求型のラップトップや、完全にクラウドで機能する Google の Chromebook などもあります。飽和状態に近づきつつあるモバイル市場でも、同じようにニッチなハードウェア登場のトレンドは避けられないでしょう。消費者にとっては嬉しい流れです。必要のない機能のあるスマホを買うのではなく、ニーズや予算に応じて端末を購入する選択肢が増えることになります。

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