Google がゲーム開発者のカンファレンス GDC 2019で、新たなゲームストリーミングプラットフォーム「Stadia」を発表しました。どんな端末でも高レベルのグラフィックのゲームをプレイできるようにするという Google のビジョンは目新しいものではありませんが、Stadia の登場で、消費者がどのようにゲームをプレイするかが今後、根本から変わりそうです。
ゲームストリーミングサービスの登場は、おのずとコンソールとPC市場に創造的破壊をもたらします。したがって、SonyとMicrosoftがすでに自前のゲームストリーミングサービスを PlayStation Now や Project xCloud で提供しているのは自然な流れでしょう。
ゲームストリーミングサービスでプレイヤーはヒットゲームをどこでも楽しめるようになります。ではそれがモバイルゲームに与えるインパクトはどうでしょうか?消費者がゲームをプレイするのにますますスマートフォンやタブレットを使うようになると、モバイルゲームのエコシステムの強化にも繋がるはずです。
ゲームストリーミングの登場は自然な流れ
ゲームストリーミングというコンセプトは数十年にわたって存在していて、これを初めて世に広めたのは OnLive です。同社は2009年の GDC で、サーバー上で動作しているビデオゲームを、ストリーミング配信しつつ遠隔操作でプレイするというサービスを発表しました。こうした革新的なゲームプレイは好感されましたが、OnLive はクオリティや価格の問題で苦戦しました。一部のゲームは、全体的には機能したものの、PC やコンソールでの本来のプレイよりもクオリティが著しく落ちました。
OnLive は2012年、突如として従業員全員を解雇し、段階的に資産を売却しました。Sony がその技術を手に入れ、買収したクラウドゲームサービスの Gaikai と合わせて自前のゲームストリーミングサービスである PlayStation Now を開発しました。加入者は月額20ドルで、オンデマンドで PC や PlayStation 4 のコンソールにオンデマンドでストリーミングされる750タイトル超のゲームにアクセスできます。
OnLive の GDC での発表から10年経った今年、GoogleがStadiaを発表しました。2019年中にゲームストリーミングが一般に広まる可能性を秘めたサービスです。OnLive は時代を先取りしすぎたと感じる人もいるかもしれません。当時はまだインターネットインフラが現在ほど強力ではありませんでした。いま、Google のスタートダッシュで、ゲームストリーミング競争が盛り上がりそうな気配がします。Microsoft は6月に開催されるゲームの見本市 E3 2019 にクラウドの計画で勝負に出る、とアピールしています。
ゲームストリーミングが導くモバイルゲームの行く先は?
ゲームストリーミングが一般に広まれば、より多くの人がスマホでゲームをプレイするようになるでしょう。ただ、そうした流れがモバイルゲームに与える影響はどんなものでしょうか?基本的に、異なるプラットフォームのオーディエンスはそれぞれ違います。ゲームストリーミングのオーディエンスは新たなものではなく、高クオリティのゲームを楽しみたいけれどもハードウェア管理の面倒は避けたいという人々です。したがってモバイルゲームは、ゲームストリーミングが提供するものを補完するかたちになると考えられます。これまでの数年間、コンソールや PC といったプラットフォームにとってモバイルゲームが補完役だったのと同じです。
ハイパーカジュアルゲームのようなジャンルは、スマホ向けに開発されていることから、モバイルで大成功を収めました。ハイパーカジュアルゲームは外出先でも簡単にプレイできるというコンセプトに基づいています。ゲームのループが短いので待ち時間に数ラウンドだけプレイすることが可能です。また、ゲームの仕組みも片手だけでプレイできるようになっています。一方で、ゲームストリーミングの場合はコントローラーを購入して携帯しなければならず、高速のネット接続も必要になります。5Gが実用化されれば、ゲームストリーミングが外出先での現実的な選択肢になるでしょう。ただ、暇つぶしや待ち時間でプレイしたい場合やオフラインで楽しみたい場合は、モバイルゲームの方が好まれるはずです。
無料プレイのモバイルゲームでゲームは大衆化し、誰もが簡単にプレイできるようになりました。ストリーミングにより、これまでモバイルでは不可能だった様々な体験ができるようになり、ゲームの大衆化がさらに進むでしょう。そして、テレビゲーム市場が成熟するにつれ、デベロッパーはさらにニッチなオーディエンスにリーチする機会が増えるはずです。
音楽・動画ストリーミングを参考に見えてくるゲームの未来は?
現在では Netflix や Spotifyなど、動画や音楽のストリーミングサービスは一般的になっています。2018年には動画ストリーミングの加入者数は、初めてケーブルテレビ契約者数を超えました。Stadia の登場が画期的なのは初めてのゲームストリーミングサービスだからではありません。音楽・動画ストリーミングのように普及するまでには数年かかるかもしれませんが、ゲームストリーミングが実際に機能する可能性を秘めた初めてのサービスだからです。
Image credit: Stadia
ゲームストリーミングが直面する課題の1つはインフラでしょう。都市部では、1080pのゲームを60fpsでストリーミングする最低25mbpsの通信速度が確保できますが、地方や新興国などでは高速インターネットが使えるようになるまでゲームのストリーミングはできません。また、最近はインターネットプロバイダがユーザーの回線容量に上限を設けるのが一般的です。通信環境が向上してデータ通信量の上限がなくなるまでは、ゲームストリーミングの飛躍は難しいかもしれません。
もう1つのハードルは、ゲームと音楽・動画ではビジネスが根本的に異なるという点です。Spotify のようなサービスはストリーミングでアーティストに支払いを発生させられますが、ゲーム開発者がゲームストリーミングで支払いを受けるにはどのような仕組みになるのでしょうか?また、たとえば最近見られるアナログレコードの人気再燃のように、ゲームを実際”もの”として所持したいユーザーが現れ、フィジカルなメディアが復活することがあるでしょうか?また、ハードルとしてプラットフォーム間の競争も考えられます。ユーザーはお気に入りのゲーム全てにアクセスするためには、複数のゲームストリーミングサービスに加入しなければならないのでしょうか?ゲームストリーミングは自然な流れですが、ゲーム業界の創造的破壊者としての効果を発揮するまでにはまだ数年かかるかもしれません。コンソールメーカーは、消費者のニーズの変化にうまく合わせてローカルとストリーミングの体験をそれぞれ賢く提供しようとするはずです。
モバイルゲームについては、モバイルファーストの体験へのニーズは消えず、プラットフォームはなくならないでしょう。スマホは将来的にゲームストリーミングで一番人気の端末になるかもしれませんが、それぞれのプラットフォームで提供される体験は異なるものになるでしょう。ユーザーは、列に並んでる時にキャンディークラッシュをプレイしたい時もあれば、長い通勤時間ではゲームストリーミングにしたい時もあるでしょう。デベロッパーにとっても消費者にとっても、選択肢と機会が増えるということです。消費者はモバイルでプレイするゲームのタイプの選択肢が増え、デベロッパーにとっては理想的なオーディエンスにリーチするための機会が増えるでしょう。